中国の今② ——中国のデザインの「垢抜け」と街ごとリブランディングされた10年

2015〜2018年に上海に駐在していた筆者。コロナ前にリアルタイムで体感した「テック大国・中国」。パンデミックを経た約10年後、上海・杭州・広州を再訪し、街が大きく変わっていることに驚かされます。このシリーズでは、デザイン・マーケティング・グローバルビジネスに携わる方々へのサジェスチョンとして、「今の中国」を3つのテーマに分けてお伝えします。
- 第1回:中国のテックの今
- 第2回:中国の街とデザインの洗練化← 本記事
- 第3回:中国のEV自動車
上海は、中国でも屈指のおしゃれな街です。それは10年前も今も変わりません。しかし、あのころは「おしゃれなエリアのおしゃれな店」にだけ良いデザインがありました。今は街全体が垢抜け、底上げされている。
グローバルのマーケティング・クリエイティブに携わる視点から、この変化をまとめてみます。
“欧米基準のデザイン言語”が都市景観のスタンダードになった
10年前の上海を思い出すと、免税タバコを路上で売るおばちゃんがいて、地下鉄の車両では物乞いが声をかけてきました。おしゃれな店はあったけれど、まだ多くはない。
街の全体として、フォントの選択・看板のレイアウト・パッケージデザインなどは垢抜けない印象だったと記憶しています。
しかし、今は普通の火鍋屋でも「ちゃんとデザインされている」。 繁盛しているカフェだけでなく、街角の小さな飲食店、スーパーの棚の商品、薬局のPOP——全体の水準が大きく引き上げられた印象です。かつてはいわゆる”中国っぽい”過剰なデコレーションや垢抜けないタイポグラフィが当たり前でしたが、今は国際的なデザインスタンダードが普通の店にも浸透しています。
↑特に有名なおしゃれカフェではなく、モールで出会ったポスター・タイポグラフィたち。
上海は”世界でいちばんコーヒーが多い街”になった
この10年で上海の飲食シーンで最も大きく変わったのは、コーヒーかもしれません。2015〜2018年ごろ、美味しいスペシャルティコーヒーが飲める店は多くなく、外国人客が主でした。それが今では、1ブロックごとにカフェがある状況。スターバックスなどの欧米大手はもちろん、ラッキンコーヒーを中心として中国ローカルチェーン、独立系のこだわりカフェが爆発的に増えています。数だけでなく、インテリアや食器・ブランディングのクオリティも高い。良くも悪くも、西洋化が加速した印象を受けます。
「麻布台ヒルズ」クラスのモールが10年で爆発的に増加
もうひとつ驚いたのが、大規模な都市開発の数・密度です。
しかも、南京西路のようなもともと栄えていたエリアだけでなく、西外灘・東方体育館前・杭州の天目里など、以前はさほど人が集まっていなかったエリアに、日本では考えられないスケールの再開発が次々と行われています。そんな場所に考え付く限りのラグジュアリーブランドのブティックが軒を連ね、建築もインテリアも洗練度が高い。
↑いままではファッションエリアというわけではなかった東方体育館前周辺にできた洗練されたラグジュアリーモール
↑杭州・天目里ももともとは何もなかったエリア。著名建築家レンゾ・ピアノのデザインで大規模に開発された。
モバイル消費が主流の中国で、なぜここまで実店舗が増えているのか。高額商品は実際に試してから買いたいという消費者ニーズと、「ショーケース」としての実店舗機能が組み合わさった結果だと思います。不景気と言われながらも消費の底堅さを感じさせます。
↑かつてはコピー品問題で考えられなかったSupremeやPalaceといった人気ストリートブランドも実店舗が進出しました。少なくとも街の表通りからはコピー品が消え、街の雰囲気をクリーンにする一因になっています。
プロパガンダ広告が「見えにくく」なった
もう一つ、視覚的に大きく変わったのがプロパガンダ広告の存在感です。
2010年代、「中国梦」「社会主义核心价值观」などの赤色をしたスローガンが街のいたるところに掲げられ、政治色を少なからず感じられ街の景観を作り出していました。今回の訪問では、そういった露骨な政治色の広告は目に見えて減ったと強く感じます。
ただ、政治的メッセージが完全に消えたわけではもちろんなく、色合いやデザインを変えて、設置されていたり、WeChatやDouyin(中国版TikTok)などのアルゴリズム・ショート動画を通じてより効率的に浸透させる方針に変わったようです。これらの施策は上海のような国際都市では、「洗練された都市イメージ」を優先する意図も感じられます。
街の壁からスマホ空間へ——情報発信の主戦場が変わりました。
日本ブランドのプレゼンスは”ソフト面”では健在
自動車やテックでは日本の存在感が大きく後退している(それは第3回で詳しく触れます)一方で、日本文化・日本ブランドへの親しみは依然として街に息づいていました。
ONITSUKA TIGERが一等地に複数店舗を構えていたり、アニメ・漫画のグッズや関連ショップが普通に存在感を持っていたり。日本食・抹茶系スイーツへの需要も根強い。ハードな産業では押されていても、ライフスタイル・カルチャー領域での日本のソフトパワーはまだ機能しています。
逆に言えば、この「ソフトパワーの強み」をいかに活かすか——それが今後の日本ブランドが中国市場と向き合う際のひとつのヒントかもしれません。
マーケターへの視点:「中国のクリエイティブ」のレベルが上がっている
この変化がグローバルマーケティングに持つ意味は大きいと思います。
かつては「中国市場向けには少しデザインレベルを下げても通る」という感覚があったかもしれません(あるいはそう思っていなかったとしても、欧米基準のアウトプットで十分差別化できた)。もしくは、ステレオタイプに赤色や金色を使うべきだと考えていた。しかし、今は違います。消費者のデザインリテラシーが上がり、日常的にグッドデザインに囲まれているため、中途半端なビジュアルは信頼を損なうリスクがあります。
また、ローカル発のブランドのクリエイティブのクオリティも上がっています。中国ブランドと戦う場合、デザインクオリティはもはや差別化要因ではなく、参入の最低条件になっているのです。




