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中国の今③ ——中国のEV革命、「日本車が走っていない」衝撃と、競争軸の根本的な変化

2015〜2018年に上海に駐在していた筆者。コロナ前にリアルタイムで体感した「テック大国・中国」。パンデミックを経た約10年後、上海・杭州・広州を再訪し、街が大きく変わっていることに驚かされました。このシリーズでは、デザイン・マーケティング・グローバルビジネスに携わる方々へのサジェスチョンとして、「今の中国」を3つのテーマに分けてお伝えします。

  • 第1回:中国のテックの今 
  • 第2回:中国の街とデザインの洗練化
  • 第3回:中国のEV自動車← 本記事
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今回の中国視察で最も驚いたことの一つは、「日本車がほとんど走っていない」という事実。

上海の街を歩いていると、体感で100台中5台程度しか日本車が見当たりません。広州でも10台程度。10回タクシーに乗っても、当たった日本車はゼロ。9台は中国系EV、1台がテスラ。この10年でなにがあったのでしょうか?

データが示す”地殻変動”

感覚だけでなく、数字もそれを裏付けています。

2025年の中国乗用車市場では、中国ブランドが約70%のシェアを占めるまでになりました(出典:JETROビジネス短信 2026年1月)。一方、日系メーカーのシェアは9.7%(292.9万台)まで低下し、前年比でさらに6.3%減少しています。

1月の中国自動車販売は前年同月比微減、輸出は4割増(ジェトロ)

新エネルギー車(NEV)の販売比率も急拡大。2025年の全体販売3,440万台のうち、NEVは47.9%(1,649万台)を占めるに至りました(出典:MarkLines 2026年2月)。BYDが首位を走り、都市部ではもはや「中国EV中心」の景色が当たり前になっています。

中国、新車販売が3440万台で3年連続過去最高、新エネ車がけん引[新聞ウォッチ]

 

10年前の競争軸:エンジン技術が全てだった

10年前の上海を振り返ると、街を走る車の多くは他の西側諸国と大きく変わらず、Toyota、Honda、といった日系、Volkswagen、Buick、といった外資系ブランドが主で、BYDも少し目にするようになった程度でした。特にVolkswagenは中国都市部の「標準的な車」と言えるほどの存在感があり、多くの家庭に普及していました。

当時の競争軸は明確でした。エンジン技術、変速機の精度、燃費性能——日本・ドイツメーカーが長年積み上げてきた「ものづくり」の強みが、そのまま競争力でした。

 

今の競争軸:「スマートデバイス」としての車

EV化によって、競争軸が根本から変わりました。

今や中国で戦っているのはバッテリー、ソフトウェア、UI/UX、OTA(オンラインアップデート)、AI連携、半導体です。エンジンではなく、スマホに近い技術領域が自動車の価値を決めます。

今の中国の若い消費者にとって、車は「機械」ではなく「スマホの延長」。巨大ディスプレイ、音声AI、スマホ連携、自動運転補助——こうした「デジタル体験」そのものが購買理由になっています。「壊れにくい日本車」より「未来感のある中国EV」が選ばれるのは、そういう価値観の変化があるからです。

↑郊外で出荷を待つ中国製EV車たち

主要プレイヤーが激しくポジショニング争い

中国EVの世界では、すでに多様なブランドが明確なポジションを持って競合しています。

主要プレイヤーを概観したいと思います。

 

BYD: 電池から車両まで垂直統合し、PHEVとBEVを幅広い価格帯で展開。LFP系のBlade Batteryはコスト競争力と安全性を両立し、市場をリードしています。

NIO: プレミアムセグメントに特化し、電池交換(Battery Swap)ネットワークという独自インフラを強みにしています。NIO Houseというラウンジ型のコミュニティスペースを全国展開するなど、ブランド体験まで徹底設計しています。

Li Auto:  増程式(EREV)SUVでファミリー層を獲得。長距離走行への不安を解消しつつ、大空間という実用性を武器にしています。

XPeng: ソフトウェアと自動運転技術(XNGP)で差別化。OTAアップデートで機能を高速追加するサイクルを作っています。

Zeekr: Geely傘下の高級EVブランドで、SEAプラットフォームを基盤に高性能とデザイン性を両立。001・009・007といったモデルを展開しています。

AITO(Huawei主導): HarmonyOSを搭載したコネクテッド体験で勝負。M7・M9がフラッグシップです。

Xiaomi EV(SU7): スマホとの連携を核に据え、HyperOSと800V対応で「スマホの延長としての車」体験を前面に打ち出しています。

そしてこの全体を底支えするのが CATL。世界最大級の車載電池メーカーとして、LFP・NMC・Qilin電池を国内外のOEMに供給し、中国EVエコシステムのインフラを担っています。

 

特にXiaomiやHuaweiというスマホメーカーが車を作り、そして成功している点は注目するに値するでしょう。

日本メーカーで言う、今年開発中止が発表されたSonyとHondaが共同で推進していた次世代モビリティ「AFEELA」とは対照的な事象に見えます。

ソニー・ホンダモビリティ、EV開発を中止 事業の継続困難

 

なぜここまで急速に変わったのか:政策とインフラの力

上に上げたメーカーについて、一般的な日本人はほとんど知らないかと思います。しかし実際にこれらのブランドの車が道路のほとんどを埋め尽くしている現実があります。

この変化の背景には、中国政府による強力な「新能源車(NEV)国家戦略」があります。購入補助金、税制優遇、EVナンバープレートの優遇、充電インフラ整備が一体となって市場を作り上げてきました。特に上海では、ガソリン車のナンバープレート取得は昔から高額な競売・抽選が必要でした。一方、EVはより容易に取得できるようにし、その結果、都市部でのEV普及が爆発的に加速したのです。

BYDやCATLが国内に巨大なバッテリーサプライチェーンを形成したことも、中国EVの競争力の根幹です。中国メーカーはこの変化に非常に素早く適応し、バッテリー・ソフトウェアというEV時代の競争軸で世界的な地位を築きました。

 

日本企業・マーケターへの視点

この変化が示すのは単純な「中国メーカーの成長」ではなく、産業の競争軸そのものが変わったということです。

日本の自動車メーカーが強みを持ってきた領域——精密加工、耐久性、燃費——は、EVという文脈では差別化要因になりにくい。代わりに問われるのはソフトウェア開発力、UI/UXデザイン、OTAによる継続的なアップデート体制です。

 

ただし、日本の完全敗北というわけでもありません。地方都市や中高年層ではToyotaやVolkswagenへの根強い信頼があるとも聞きます。また、日本食・抹茶・アニメ・漫画・ONITSUKA TIGERなど、ライフスタイルやカルチャー領域での日本のソフトパワーは依然として街に息づいています。基幹産業での大敗を直視しながらも、ソフト面での強みをいかに展開するかが問われています。

マーケティング視点では、中国のEVブランドが展開するコミュニケーションの質・量・速度感も参考になります。NIOのコミュニティ型マーケティング、XiaomiのSU7発売時のバイラル戦略など、既存の自動車メーカーとはまったく異なるプレイブックが展開されており、都市部・若年層における変化は、もはや不可逆的に見えます。