【現地レポート】アフターコロナの訪日インバウンドはどうなる? イギリス最大の消費者向け旅行博Destinations2023を取材
コロナウィルスよって欧米の国々が前代未聞のロックダウンを行った2020年3月から、今年で3年が立ちました。
コロナ禍前は右肩上がりの盛り上がりを見せていた訪日インバウンドですが、この3年間を終えて、現在の市場はどのような時期を迎えているのでしょうか?
今回は2023年2月2~5日、ロンドンのオリンピア展示場にて開催された、イギリス最大の消費者向け旅行見本市“Destinations2023”を取材しました。
日本よりも一足先に旅行規制が撤廃されていたイギリスで、訪日旅行は今どのように取り上げられているのか、現地の最新訪日インバウンド事情をお届けします。
さらにイギリスやヨーロッパで受け入れられているブランディングやマーケティング手法も、ご紹介します。
イギリスの旅行市場とは
まず初めにイギリスの訪日市場の概要を見ておきましょう。
JNTO(日本政府観光局)の発表によるとコロナ禍直前の2019年のイギリスからの訪日客数は約424 ,000人でした。これは欧米諸国内ではアメリカに次いで2位、ヨーロッパ内では1位の訪日客数です。
JNTO 訪日旅行データハンドブック 2022年 (561ページ)
なぜイギリスの訪日市場はこれほど成長しているのでしょうか?
それには以下の2つの大きな理由があります。
日本はトレンドではなく、定番の旅行先
2010年代前半、震災の影響もあり訪日数は伸び悩んでいました。しかし2015年頃からイギリスでの日本食やポップカルチャーブームが追い風となり、現地のドキュメンタリー番組などで日本が頻繁に取り上げられるようになります。
例えば、沖縄の文化と長寿の秘訣の特集、北海道の手つかずの自然を紹介したり、日本人でも知らないような地方の工芸文化の歴史を訪ねたり…
SushiやSamuraiだけではない日本の多様性は、現地イギリス人の目に『まだ体験していない新しい世界』として映りました。
それまでは一部のファン向けの『ニッチ』な旅行先だった日本が、現在では一般層の『行きたい国リスト』の上位に入るようになり、旅行代理店での日本行きの扱いも増えています。
ヨーロッパは旅行市場のポテンシャルが大きい
日本ではコロナ禍以前から若者の海外旅行離れが指摘されています。円安などの経済的な問題や、日本国内での別のレジャーが充実していることが原因とされていますが、ヨーロッパで逆の傾向が見られます。
ヨーロッパでは、物の購入よりも「体験」や仲間との「時間」にお金をかける消費傾向があります。さらにイギリスを含むほとんどの欧州諸国の有給消化率は95%以上、年間に1~2週間程度の休暇を数回とり、休暇の大半を旅行に使うのが一般的な会社員の「ホリディプラン」です。フランスやイタリアでは一回に3~4週間の休暇を取ることも、珍しくありません。
このようにヨーロッパ人にとってホリディ、つまり旅行は日本人にとっての休暇の意義とは違い、1年のメインイベントとなっています。
先ほど、2019年のデータでイギリスから日本への年間旅行者が約424,000人と紹介しましたが、これはアジア諸国では4番目に多い数で、1位はタイの約 992,000人、2位は中国の約 612,000人となっています。
将来、これらの観光客が日本を旅先に選ぶ可能性を考えると、訪日インバウンド市場は現在日本で想像されているよりも、さらに高いポテンシャルを持っているのかもしれませんね。
アフターコロナの訪日需要と課題
ヨーロッパ諸国では2022年夏までに海外旅行に関する規制がほぼ撤廃となり、コロナ禍前と同様に海外旅行を楽しむ事ができるようになっていました。同様に規制撤廃の早かった北米・南米エリアへの渡航者数は徐々に回復傾向にあるようです。
そのため今回のイベントではアメリカや南米観光局のパビリオンが並ぶ一方、アジアをメインに扱う出展エリアはコロナ禍前の半分程度に縮小しており、残念ながら日本の観光庁のブースも出展はありませんでした。
現在ヨーロッパからの訪日の最大のボトルネックとなっているのは、燃油コストの上昇、そしてロシア・ウクライナ情勢の影響による飛行機の航路変更です。
この影響でロンドン・東京間の航空券チケットの値段は2023年3月現在でコロナ禍前の2倍近くになっています。日本行きを諦めて、北米や東南アジアなどに旅行先を切り替えざるを得ない旅行者も少なくはないでしょう。
ただ訪日旅行者はもともと富裕者層が多いため、少しずつでも確実に旅行者数は回復していくものと見られています。
イギリス人が旅行に求めるイメージ
イギリスからの訪日市場の概要を把握したところで、どのように消費者に訴求をすればよいのでしょうか?
まずは今回の見本市で配布されていたパンフレットや宣伝媒体の一例をご紹介します。
左は南米、中央と右は全世界のグループツアーのパンフレットです。
日本で見かける観光パンフレットとは大分違う印象を受けられたのではないでしょうか?
こちらは東南アジアのパンフレットです。
こちらはイギリス国内旅行のパンフレットです。
日本の観光業界では、画面内に写真を多数利用したり、強調文字や色を多用するデザインを多く見かけます。
対してイギリスでは観光地そのものや記念写真のような直接的なイメージよりも、人や街、自然の一部を切り取った『雰囲気の伝わる写真』が好んで使われます。
消費者が旅行に期待するイメージは、リラクゼーション、非日常、感動体験…
それを象徴するように文字や説明情報は最小限に抑え、非日常感を強調するようなデザインが多く採用されていることが分かりました。
さらに興味深い事実があります。
旅行代理店の担当者が最もこだわり、コストを割くのは、実は写真。政府観光局が提供しているフリー素材では、消費者の目を引くことができないと判断し、自社専用のものを高額で購入したり、実際に撮影を行うこともあるのだそうです。
イギリス人から見た日本
こちらは日本をフィーチャーしたパンフレットです。
いかがでしょうか?
日本人が選ぶ「日本」のイメージとは少し違った仕上がりになっていると感じた方も多いのではないでしょうか?
ヨーロッパの消費者への訴求には、すでに日本の事を詳しく知っている日本の消費者へのアプローチとは当然異なってきます。
写真一枚や説明文の一つ一つでも、現地消費者の好みにどれだけ寄り添うことができるのか、それが効果的なブランディングの鍵になりそうです。
ヨーロッパの消費者に訴求する表現
海外マーケティングでは現地消費者の好みを的確にとらえることも重要ですが、それと同じくらい重要なのが、表現手法です。
こちらの、アメリカ政府観光局が公開しているこちらの動画を見てみましょう。
この動画では、物語の主人公を社会人女性に設定し、彼女の目線でアメリカの魅力や楽しみ方を語っています。娘、母、祖母の親子3世代で旅行を楽しむエピソードは観光地のPRとは直接関係はありません。しかし消費者は自分を主人公に重ねやすくなり、ストーリーへの没入感を強め、共感を生むことができます。
集団よりも個人を重視する欧米文化圏では、観光地や商品そのものよりも、消費者を主人公に据えることを意識しておくことが重要です。
ペルソナを意識したマーケティング
消費者を主人公に据えたマーケティング戦略は「ペルソナ」の設定がしっかりと行われていないと成り立ちません。
ペルソナはターゲッティングと似た意味で捉えられがちな用語ですが、ターゲッティングが実在の一部集団に購買層を絞る手法であるのに対し、ペルソナの設定は架空の消費者の人物像を年齢・性別・居住区にとどまらず、趣味・嗜好・ライフスタイルまで事細かに設定してマーケティングすることをいいます。
海外マーケティングではそもそも日本向けに作られた製品・サービスを生活文化の全く異なる消費者に向けて発信していくことになりますので、訴求したい国の現地の消費者を知り、顧客を明確にイメージした上で、マーケティング戦略を構築していくことが効果的でしょう。
これからの訪日インバウンド戦略に求められること
今回はイギリスから訪日インバウンド事情の最新事情と効果的なマーケティング方法をご紹介しました。
ヨーロッパからの訪日旅行はこの先、更に人気が集まり、ビジネスチャンスも増えていくと予想されます。
ヨーロッパの消費者は「体験」を求めています。体験したいと感じる「雰囲気が伝わる写真・デザイン」や、個人の内面にフォーカスした共感を作り出すコミュニケーションが、現地消費者に効果的に訴求するため重要なポイントのひとつです。
このようなコミュニケーションの開発、プロモーションツール制作には、海外の市場・消費者心理の知識が必要となります。ターゲットエリアのトレンドはもちろん、その国の文化、嗜好、消費者の行動パターンやタブーなどを総合的に加味することで、はじめて現地ユーザーに商品やサービスの魅力が伝わります。
インバウンド訪日客への旅前・旅後のプロモーションをご検討の際は、ウィル・フォースにご相談ください。